ナチス映画『シンドラーのリスト』には、強烈なインパクトを残すシーンがいくつも出てきますよね。
その中でも、子供達がトラックで移送される中、男の子がトイレ(肥溜め)に隠れるシーンは、特に印象に残ったのではないでしょうか。
シンドラーのリスト|男の子がトイレ(肥溜め)に隠れるシーンの意味
男の子が、トイレ(肥溜め)の中に隠れたのは、ガス室送りから逃れる為です。
男の子がトイレ(肥溜め)に隠れるシーンをおらさい
ある日の朝。
クラクフ収容所では、不穏な身体検査が行われました。
女性たちは、頬に血を塗るなどして、血行を良く見せようと努力しました。
労働力にならないと判断されれば、命の保障はないと考えたからです。(実際、そうでした)
大人たちは広場に集められましたが、
子供達は問答無用でトラックの荷台に乗せられ、移送されていきます。
大半の子供は順応に従っているようでした。
が、中には逃れようと走りまわる子供達もいました。
オレックは、トラックに乗る列に並んでいましたが、
隙を見て、列から外れます。
そして建物まで走っていくと、
地下収納庫や、かまどに隠れようとしますが、どこも子供でいっぱいです。
みな、考えることは同じなのでした。
そこでオレックは致し方なく、
木に穴をあけただけのトイレに向かうと、
穴から肥溜めの中へと飛び込みます。
するとそこにも数人の子供たちがいて、その中のひとりに、
「出てけ、おれたちの場所だ」
と押し殺した声で言われました。
オレックはそれには何も答えず、
不安げに、落ちてきた穴の向こうを見上げるのでした。
シンドラーのリスト|トイレ(肥溜め)に隠れた男の子たち・トラックの子供はその後どうなった?
●トイレ(肥溜め)に隠れた男の子たち
…とりあえずひとまずは生き延びた。オレックに限っていえば、戦後まで生き延びた。(両親と共にシンドラーのリストに載った)
●トラックに乗せられた子供たち
…ガス室送りとなり、助からなかったものと思われる。
オレックは、エンディングに映っていました。
シンドラーのリストに載り、シンドラーの庇護下に移ったことで、終戦まで生き長らえることができた、ということでしょう。
一方トラックに乗せられた子供たちは、そのままガス室送りになり、助からなかったものと思われます。
正に生死の分かれ道でした。
シンドラーのリスト|男の子がトイレ(肥溜め)に隠れるシーンは実話?
概ね事実だと思われるが、フィクション部分もある
映画『シンドラーのリスト』は、
史実に基づいて制作されていますが、
シンドラー・チルドレンによって、脚色部分もあると指摘されています。
(我々がメディアで目にするのは、どれもあくまで二次情報ですが)
例えば、映画のクライマックスにあった、皆でシンドラーを盛大に送り出すシーンは、実際にはなかったということです。
このオレックがトイレの肥溜めに隠れる…
というシーンにおいても、
実話ではなく、脚色部分です。
(本人談による。書籍『私はシンドラーのリストに載った』⦅エリノア ブレッチャー著、幾野宏訳⦆より)
映画の中では、オレックはトイレ(肥溜め)に隠れことになっていますが、
しかし実際には、オレックにトイレ(肥溜め)に隠れた経験はないそうです。
トイレに隠れたローマン・ファーバー
それに近い経験をしたのが、
ローマン・ファーバーという、シンドラーのリストに載った人物のひとりでした。
当時子供でした。
しかしかくいうローマンも、トイレ(肥溜め)に胸まで浸かったことはないということです。
というのも、トイレ(肥溜め)の深さは12フィート(約3.5メートル)あって、そこに飛び込もうものなら、溺れてしまうことになったからだといいます。
トイレ(肥溜め)でおぼれちゃうなんて、
想像しただけで恐ろしいね
ではローマンはどうしたのかというと、
便座(まるい穴の空いた板)の下の、横木と横木の間に、体を支えて隠れていたとのことでした。
その臭いといったら、言葉にできなかったそうです。
しかしその臭いが盾となって、親衛隊をトイレに近寄らせなかった為、ローマンは彼らに見つからずに済んだのでした。
もしトイレの深さが浅かったのであれば、背に腹は代えられないと、子供達は映画の中のように喜んで肥溜めに飛び込んだのではないでしょうか。
強制収容所は51もあり(絶滅収容所含む)、場所によっては水洗トイレもあったようですから、そういった浅いトイレも実在していたのではないでしょうか。
映画で描かれたトイレ(肥溜め)のシーンは、誰か別の生存者の体験談を切り貼りしたものなのかもしれないですね。
しかしそうだった場合、疑問があります。
それは、子供たちはその後いったいどのようにして身を清めることができたのでしょうか、ということです。
知るところによると、当時囚人は水を自由にできませんでした。
しかしそのままでいたら、恐らく病気にかかってしまいますよね。
当時の子供達の日常
ローマン・ファーバーの話によると、
子供たちは親衛隊の目に留まらぬよう、1日の大部分を、炉の中に潜り込んだり、床下にはいり込んだり、共同便所に隠れたりして過ごしていたそうです。
そして足音を聞いて、もう外に出ていいかを判断します。
彼らは足音で、それがユダヤ人のものなのか、ドイツ人のものなのかを、聞き分けることができました。
これはなんとなく分かる気がしますね。
上等な靴を履いて人目をはばからず歩くことができたドイツ人は、
きっと堅くて軽快な靴音を響かせたことでしょう。
どうして彼らがそんな風にして1日を過ごすことができたのかというと、
当時幼い子供は「囚人」とは認識されておらず、
大人のように厳密に管理されていなかったからのようです。
つまり、"逃げるが勝ち"だったということですね。
シンドラーのリスト|男の子がトイレ(肥溜め)に隠れるシーンは何を伝えたかった?
ホロコースト時代の子供達をとりまいていた過酷で残酷な環境を、
表現できる範囲で表現したのではないか。
子供たちがナチスの手から逃れる為に自ら進んで肥溜めの中に飛び込むというのは、
一度観たら中々忘れることができない、ショッキングなシーンですよね。
しかもその場所は彼らにとって、
他の子には取られたくない魅力的な場所でした。
「出ていけ」と言われるのも、言った方もかわいそうでしたよね。
要は生きることに精一杯で、
大人も子供も、他人を思いやることが難しい状態でした。
生存者の話によると、
映画『シンドラーのリスト』に出てくる残虐なシーンは、
涙が出てしまう程にリアルに再現されていたそうです。
しかし残酷さでいえば、生ぬるい。
つまり、本当はこれ以上にもっとひどいが行われていたといいます。子供に対してもです。
しかし制作側は、
映画をより多く、より広い年代の人に見てもらえるようにと、
ホロコーストの残虐さを伝えることができるけれど、だけど過激すぎないエピソードを厳選して作品にまとめたのではないか、という気がします。
原作ノンフィクション・ノベル『シンドラーのリスト』に、
トイレ(肥溜め)のシーンは描かれていません。
小説『シンドラーのリスト』はノンフィクション・ノベル
フィクション(小説)とノンフィクションの中間ともいえるが、事実には基づきながらも、細部においては創作的な部分の多いものもある。
情報・知識&オピニオン imidas(https://imidas.jp/genre/detail/L-103-0030.html)
シンドラーのリスト|トイレ・肥溜めのシーン感想
『シンドラーのリスト』のトイレのシーを観て最も疑問に思ったのは、
子供達が隠れたところで、
その後すぐに親衛隊にすぐ見つかってしまうのではないのか?
ということでした。
オレクの行く先々に子供が隠れていたくらいですから、
親衛隊が探してもすぐ同じように彼らを見つけ出すことができそうでした。
肥溜めに落ちたオレクには、もう少し影の方に移動してもらいたいと、ハラハラさせられました。
しかし不衛生な場所に隠れていれば、
シラミやらチフスやらをいやがる彼らは近づいてこないので、
やり過ごすことができた、ということですね。
肥溜めに浸かった彼らがその後どうやって体を清めたのかということについては、はちょっと謎のままでした。
トラックで移送される子供たちは、一見するとことのの深刻さを理解していないようにも見えました。
まるでどこかにお出かけするとでも思っているような。
が、実際はどうだったのでしょうか。
しかし母親、父親にあれだけ悲痛な様子で群がられた後であれば、
さすがにこれから自分たちの身に何が起こるのか、
大体察しはついたのかもしれません。
シンドラーのリストその他解説
以下の記事もチェックしてみてください。
参照文献:
書籍『シンドラーズ・リスト : 1200人のユダヤ人を救ったドイツ人』(トマスキニーリー著、幾野宏訳)
書籍『私はシンドラーのリストに載った』(エリノア ブレッチャー著、幾野宏訳)
Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/ナチス・ドイツの強制収容所一覧)
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