映画を観ていて、なんとなく違和感を感じるこのシーン。
当時の時代背景を知ることによって、ハッキリとその意味を理解することができます。
関心領域|毛皮のコート(服)・口紅は誰のもの?

アウシュヴィッツ強制収容所に送られたユダヤ人のもの
ユダヤ人の服が、ヘス家に持ち込まれるまでの経緯
ユダヤ人が強制収容所に送られると、まず、
①ガス室送りか
②囚人になるか
に選別されます。
(つまり、①は死を意味する)
ガス室送りになれば、
「シャワーを浴びさせるので、服を脱げ」と指示され、
囚人として強制労働させられるのであれば、
「囚人服に着替えろ」と指示されます。
要は、いずれにせよ、これまで身に付けていた衣類は脱ぐしかなくなります。
ガス室送りになろうが、
囚人として強制労働者になろうが、
人体実験の被検体になろうが、
ナチスは彼らを生かして返すつもりはありませんから、
彼らが脱いだ衣類を取っておいてくれるはずもありませんでした。
こうしてユダヤ人から盗まれた衣服が、ヘス家に流れ込んでいたというわけでした。(→これは規則破りでした。)
ヘートヴィヒが『関心領域』で目を付けていたのは、上等そうな毛皮のコートでしたね。
ポケットからは、毛皮のコートの真の所有者の物であろう口紅が出てきます。
ここで通常の感覚であれば、これらが誰かのものだったことを思い出し、その身を案ずるなどして、思わず怯んでしまうところなのでしょう。
しかしヘートヴィヒは事も無げに、口紅をポンと鏡台に投げやります。
そしてその後、その口紅を試してみてから、当然のように自分の鏡台の引き出しに閉まってしまいました。
「小さいユダヤ人のワンピース」とも、話のネタとして平然と口にしています。
せめて、「小柄の女性のワンピース」等と言ってほしいですよね。
しかし、あの小馬鹿にしたような口調で話されたら、きっと何を言われてもいやですね。
ヘートヴィヒはこの他にも、被害者からはく奪した衣類を、使用人にも「ひとり1枚」と我が物顔で与えていました。
これだけ見ると、独り占めするよりかはまだマシかと思いますが…
しかしへートヴィヒは、映画には描かれなかったものの、使用人に支給された下着を取り上げる代わりに、着古しを与えていたというのです。
関心領域|歯磨き粉の中のダイヤは誰のもの?
アウシュヴィッツ強制収容所に送られたユダヤ人のもの
歯磨き粉の中から出てきたダイヤも、やはりユダヤ人のものでした。
なぜダイヤが歯磨き粉の中から出てきたのか?
というとそれは、ユダヤ人が、ナチスに取り上げられることを警戒して隠していた為です。
というのもユダヤ人の大抵が、強制収容所に送られる時にナチスより、
「移住するだけなので、荷物は多少持っていっていい」と騙されていたからなのですね。
無論、抵抗されない為でした。
それでユダヤ人は、ナチスより渡されたスーツケースに、鍋、フライパン、ブラシ、人形といった生活用品や財産を詰めて、強制収容所に持ち運んだのです。
ユダヤ人たちは、金目の物は持っていけば盗られるだろうと思っても、まさか命まで盗られるとは思っていなかったのでしょう。
辛いですね。
とあるユダヤ人がマグカップの隠し底(二重底)に隠した金の指輪とネックレスは、2016年まで発見されることがありませんでした。

希望を持たせるだけ持たせやがって…!
ヘートヴィヒは、『関心領域』で、ダイヤを盗ったばかりか、「奴らは賢い」と、彼らをせせ笑いました。
「もっと探して」とも。
彼らは一体どんな思いで、歯磨きの中にダイヤを詰めたというのか。
「奴らは賢い」はフィクションだとは思いますが、決して誇張はしていないことを感じます。
ナチスは、「助けてほしい」と命乞いする囚人に対して、「犬め。どうせしぬ」等と言い放ったくらいですから。
人間、怖いですね。



もう2度と起こってほしくない
関心領域|子供がベッドで眺めている金歯は誰のもの?
アウシュヴィッツ強制収容所に送られたユダヤ人のもの
子供がベッドでキラキラと眺めていた金歯も、やはりユダヤ人の物です。
そろそろ鬱々としてきてしまったでしょうか。
ナチスは、金目の物とあらば、ユダヤ人の金歯までも見逃さなかったのてす。
ナチスがどうやってユダヤ人から金歯を剥ぎ取ったのかというと、金歯のある人を事前にチェックしておいて、死んだ後に、硬直する前の遺体から剥ぎ取りました。
(それも囚人に命じてやらせた)
ナチスがユダヤ人を生きたまま火葬しなかった理由は、この金歯を盗る為だったともいわれています。



生きているときにやらせなかったことに安心してしまう悲しさよ
まとめ:ヘス家はユダヤ人よりコートから金歯から何から何まで搾取していた
ヘス家は、ユダヤ人から、コートも、口紅も、金歯も、ダイヤも何もかもはく奪していました。
その他にも、彼らの髪の毛は織物の材料として売られ、もっといえば、骨まで肥料として消費されたのです。
更に怖いことに、ヘートヴィヒは、夫が壁の向こうで何をやっているか知った上で、これらの行動を取っていた可能性があるということです。
ルドルフは、1942年末になって初めて、収容所の目的について、ヘートヴィヒに話したとされています。(へートヴィヒはさすがにそれより前から勘付いたようですが…)
ルドルフがヘス作戦を監督する為にアウシュヴィッツに戻ったのが、1944年5月8日です。
ヘートヴィヒは使用人に対して、
「夫があなたを灰にして一面にまきちらすから」
と、口にしていましたよね。
史実上でも、へートヴィヒや長男は夫が帰ってくると、処罰した方が良いと思う囚人の使用人について、ルドルフに告げ口していたといいます。
また、ユダヤ人からはく奪した服のボタンは、彼らが触れた留め具に触れると虫酸が走るという理由で、変えるのが一家の決まりだったそうです。
実に中途半端な線引きですよね。
しかしヘートヴィヒが、彼らの口紅を使用することができるのは、罪悪感の欠如はもちろんのこと、本当は、彼らが罪人ではないことを知っていたからなのではないでしょうか。
ヘス作戦▼
43万人のハンガリー系ユダヤ人が収容所に移送され、 56日間で殺された
https://navymule9.sakura.ne.jp/Rudolf_Hoess.html
参考文献:書籍『アウシュヴィッツのお針子』
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